ル・マン 24時間レース 2016

LeMans24

「ノーパワー!ノーパワー!」

中嶋一貴の悲痛な叫び声が響き渡ったのは、24時間レースが残り5~6分となった局面だった。中嶋の駆る5号車「トヨタTS050ハイブリッド」は、その時点で2号車「ポルシェ919」に20秒の差をつけて首位を走行。「うまくペースを作ることができており、(追い抜かれる)心配はしていませんでした」と中嶋が振り返ったとおり、そのままのペースを保っていれば、18度目の挑戦にしてトヨタ悲願のル・マン総合初優勝は確実だった。

しかし、レースの神様がトヨタに与えたのは、勝利の美酒などではなく、残酷な結末だった。中嶋の叫びもむなしく、時速200km以上のスピードが出なくなってしまった5号車は、成す術なくポルシェに首位を明け渡し、レース終了3分前の時点でとうとう走ることさえできなくなってしまう。トヨタ陣営はもちろん、会場にいる多くの観衆、テレビの前の視聴者さえ、何が起きたのか分からない。ポルシェ陣営の歓喜を目の当たりにしてもなお、起こった事態を受け入れることは困難だった。

レース後、マシントラブルについて多くを語らなかった中嶋は最後に一言、「来年こそトロフィーを獲得しに帰って来ます」と決意を表した。気丈に振舞う中嶋の目線は、すでに来年のル・マン優勝を捉えている。勝負は結果が全て。1秒を競うレーシングドライバーとはそういうものなのだ。

ポルシェのアンドレア・ザイドル監督は「このような偉大なレースでの優勝を最終ラップで逃すことは、どんなに手強いライバルにも起こって欲しくないこと」とトヨタへの同情を見せながらも、「モータースポーツでは最後まで何が起きるか分からない。これこそ、私達がこのスポーツを愛して止まない理由でもある」とレースの世界の厳しさを説いた。

トヨタの豊田章男代表取締役社長はレース後、チームを象徴するコメントを残している。「我々、『TOYOTA GAZOO Racing』は“負け嫌い”です。負けることを知らずに戦うのでなく、本当の負けを味わわせてもらった我々は、来年もまた、世界耐久選手権という戦いに、そして、このル・マン24時間という戦いに戻ってまいります」

この悲劇を笑顔で振り返れる日が来るまで、トヨタの挑戦は続く。

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