Interview ヤマハ発動機ジュビロ監督 清宮克幸「自分の気に入った視点でラグビーを楽しんでほしい」

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空前のラグビーブームを巻き起こした2015年のラグビーワールドカップにおける日本代表の躍進。早稲田大学、サントリーサンゴリアス、そしてヤマハ発動機ジュビロに数々のタイトルをもたらした清宮克幸監督は、ワールドカップでの日本の躍進をどのように観ていたのか。また、6年目を迎えたヤマハでの新たなシーズンに懸ける想いとは。

日本のラグビー全体の位置が変わる出来事

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■昨年のW杯、日本代表(以下、ジャパン)の活躍が脚光を浴びましたが、監督ご自身はどのように観ていましたか?
「すごいことをしたなぁと。そこはファンの目線と変わらないですね。まずは偉大な戦歴に対する称賛と敬意がありました。あとは日本のラグビー全体の立ち位置が変わるなと。彼らが活躍したことはもちろん彼らの成果なのですが、彼らと一緒にやっているラグビートップリーグの価値も一緒になって上がってきた。自分たちのやっていることと、世界との距離が縮まっているという視点もありました」

■躍進の要因はどこにあると考えていますか?
「これまでの積み重ねでしょうね。あとは選手たち1人1人が戦えるというところ。一昔前まで、コンタクトエリアで圧倒的に差があったわけじゃないですか。そこで、例えばアメリカ、サモアといったチームと普通に戦えている。日本人だけじゃないとはいえ、そこが一番進歩した部分だと感じました。何か特別なことをやったから結果が変わったわけではなく、積み重ねてきた結果が、世界に大きく近づいてきたということですね」

■逆に、まだまだ足りない部分はどこになるのでしょうか。
「6月のスコットランドとのテストマッチを見ていても、突破されるシーンがかなり淡白に映りました。W杯もそうでした。それはサンウルブズを観ていてもそう。『頑張って頑張って頑張ったけど最後に一人余られてのトライ』ではなくて、あっさり真ん中を割られてしまう。そのあたりはまだこれからの課題でしょうね」

■その差をどうやって埋めていけばいいのでしょうか。
「ジャパンが世界との差が縮まったことを示し、サンウルブズがスーパーラグビーで世界と戦っている。あとはトップリーグの単独チームの実力が一体どれくらいなのか。ファンも知りたいでしょうし、僕たちも知りたい。たとえば、昔ジャパンがまだまだ弱かったとき、東芝ブレイブルーパスがトップリーグ3連覇したときには、東芝で日本代表を組んだほうが強いんじゃないのって言われた時代がありました。サントリーが強いときもそうでした。そういう意味では、トップリーグの上位に入るチームが世界トップクラスの強豪と試合をして、どれくらい試合ができるのかは、はかってみたいですね」

■選手たちがサンウルブズやナショナルチームで海外のチームと戦ったり、経験を積むことについては監督としてどう思っていますか。
「これを3年、5年、10年とやっていくと、自然に“慣れ”というか、全体のレベル、ステージを上げていくんだろうなという気はしますよね」“ヤマハスタイル”の礎は着実にできてきている

■ヤマハ発動機ジュビロの監督になって6シーズン目を迎えます。チームは着実に成長していると感じますが、振り返ってみていかがですか?
「もちろん“日本一”を宣言して、その目標は達成できました。ベースの力はもちろん、上がってきています。これをずっと、未来永劫とは言いませんが、この強さを持続するための整備をしていかなければいけない。一つは、今年3月に完成したクラブハウスもそうですし、そうしたところから1つ1つステップアップすべきチームだとは思います。例えば選手の入れ替えにしてもそうですけど、中心になっていた選手たちが年齢を重ねていく。その中で、若い選手たちがいかにそこへコミットしていくかというのは、これからの数年間、大きくなってきます。そういうチームのスタイルとか文化をしっかり作っていかないと、指導者が変わったらチームが変わってしまいますよね。今はそういうものをしっかりと積み上げていく期間なので、ヤマハのチームスローガンは『ヤマハスタイル』。ヤマハだからこうするんだという、その礎というのは着実にできあがってきているなという実感はしています」

■3シーズンぶりの総当り戦が復活する今シーズンは、昨シーズンや一昨シーズンと比べてチームマネジメントの部分で、どのような変化がありますか?
「今年は、リーグ戦だけで優勝を決める初めてのシーズンです。当然、各チームとも織り込み済みで、これまでのリーグだと、最初は様子を見ようという雰囲気があるのですが、今シーズンに限ってそれはないでしょうね。

■ボーナスポイントのシステムも変わります。
「これまでは4トライ取ってしまって試合も30点差がつけば、ベテランを休ませて若い選手にチャレンジさせる時間となり、最後に向こうに2トライを取られても、大勢には影響はありませんでした。でも今シーズンからは(4トライ取っても)2トライ取られたらボーナスポイントがなくなってしまうので、最後まで息が抜けません」

■若手にチャンスを与える機会が減ってしまうのでは?
「先ほど、ヤマハの若手とベテランの世代交代の話をしましたけど、昨シーズン最終戦の最後のトライは、入社2年目の粟田祥平でした。3位決定戦で逆転トライをして試合を決めたのですが、今のヤマハとこれからのヤマハを象徴するシーンだったと僕は思っています。大学時代に名前も実績もない選手が、ヤマハでトレーニングをして、チャンスを掴んで、舞台に立っていくという姿。そういうものを作っていくのがヤマハのラグビーだと思っています。まさに、自分たちのスタイルを表現できたシーンの1つだったわけですよ。粟田は学生時代、1軍に入ったことがない、2軍止まりだった選手。3位決定戦は決勝戦の前座として行われたので、舞台は超満員の秩父宮です。その中に両親や、地元の学生時代の仲間たちが観に来て、逆転トライを観て涙して帰っていった。これぞ“ヤマハスタイル”というシーンだったと思っています」

■そういった選手の獲り方に工夫はありますか?
「ラグビーにはドラフトはありませんが、プロ野球のドラフトに例えるならば、一巡目はまずヤマハには来ません。二巡目は一巡目より落ちるわけですから、そうすると誰も知らないような選手から、一部分何かが突出している選手を入団させるしかない。粟田はバックスで190cmあった。そういうポテンシャルの高さを見込んで採用しました。僕らも連れて来て目の前で見ないと判断できません。ここ(磐田)でトライアウトをするんですよ。誰が伸びてくるか。伊東力という選手は関西の2部リーグ出身で、いまやヤマハの完全なレギュラーです。2部リーグでちょっと面白いやつがいるぞということで呼んで、目の前で見て採用する。今年採用した3人が2部リーグ出身です。なかなか他のチームでは獲りにくい選手でしょうね。彼らがチャンスを掴んで、試合に出て、エリートじゃない俺たちにもできるというメッセージを出していくことが、ヤマハのラグビーの使命だと思っています」

■エリートではない選手たちをどう育てていくのですか?
「若い選手たちはオフだったり、練習が終わってチームのスケジュールは飯食って終わりという時間からもトレーニングしています。実績のない選手たちは実績のある選手とは違って、常に競争の中に置かれているので、そんなに何年もチャンスがあるわけではありません。入って2年~3年で大きく変化しなければいけない選手たちです。大体の選手たちは、1年で10kgくらい体重が増えて、そこから体脂肪を落としていくという作業をやっています。それはヤマハが素晴らしい育成システムを持っているというわけではなくて、それくらい大学時代にやっていなかったということです。大学のトップチームでやってきた選手は、それをやってきているから伸びしろが少ない。そういう若い選手たちの力と、プロップのベテラン2人、田村義和と山村亮ね。37歳と35歳の2人の3番。こういうベテランの選手たちも若い選手たちに負けじと意地を見せてくれる。強いチームにはどこにでもいますけどね。大野均とかね。東芝のようなチームは松田努だったり大野だったり、生え抜きの顔となる選手が生涯、自分が納得するまでラグビーをする。チームの功労者だからね。そこの考え方はヤマハも同じです」

■今シーズンから、トップリーグの外国人枠が3枠に増加しました。
「どのチームにも、すごく影響があると思います。特に、良いシステムを持ってチームの総合力で勝負してきているチームというのは、そういう外国人の起用がすごく利くと思います。アジア枠も、うちはマレーシアからクリシュナン。ラグビーやってたのって聞いたら7人制しかやってない。15人制はヤマハに入ってから。最初にポジションを聞いたら『ウイングかロック』みたいな(笑)。『え?ロック?じゃあスクラム組んでみて』ってやったら膝ガクガクで、生まれたての小鹿のようでした。それでも採用しましたからね。スピードがあって、走り方がキレイで、なぜここまで成功したかと言えば、頭が良かった。コミュニケーション能力が非常に高く、性格もすごくいい。一昨シーズン、日本一になった後でマレーシアの空港に着いたらテレビカメラ7台くらいの大フィーバーだったらしいよ。マレーシアラグビー界にとって初のトップリーガーですから。中継も国営放送って言ってたね。そのあたりもヤマハらしさの表れだと思う。下部リーグの選手を獲ってくるのも、7人制ラグビーの選手を獲ってくるのも」

心・技・体・知のバランスが必要な競技

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■今シーズンの目標をお願いします。
「もちろん優勝です。試合数が多くなるというのは、ヤマハにとってはすごくプラスなこと。2シーズン続けて、リーグ最終戦でベストメンバーが揃っています。怪我人ゼロ。もちろん不可抗力はありますけども、シーズンが深まれば深まるほど、選手が育ってきて、選手層が厚くなっていく。試合数が増えることは大歓迎です。逆に良い選手をたくさん揃えているチームは短期決戦の方が良い。試合数が増えれば、熱を出すような貢献を多く見られます。昨年の大会方式では7試合をしたら、トーナメントに入る短期決戦。良い選手が多いチームが有利で、ヤマハはなかなか選手を試すことができなかった。昨年の大会方式はヤマハ向きではなかったと思います。可能であればホーム&アウェーでやりたいくらいです。10チームで年間18試合やって。会場も東京・大阪ではなく、トップ4はそれぞれの地元でやる。将来的にそうなったらいいですね」

■ラグビーのビギナー向けに面白い観戦ポイントをお願いします。
「ラグビーは色んな要素を必要とする競技。総合競技といいますか、究極の競技といった方が良いかな。心・技・体・知。4つの要素が揃っていないと勝者にはなれない。そのバランスがどの競技よりも必要な競技です。偶然性よりも必然性のスポーツで、取り組んだことが結果になります。もう1つ、ラグビーは実はディフェンシブなスポーツです。自分たちが守りたいもの(ゴールライン)をどうやって守るか。野球やサッカー、バレーボールにはなくてラグビーにあるのは人へのタックルなんです。ディフェンシブな、守りたいものを守るためのシステムと、勇気と、連携ですね。それから責任。そういう見方も楽しいんじゃないかなと思います。後ろにしかボールを投げてはいけないというルールは、どちらのディフェンスが優れているかを競う競技の表れなんです。ボールを前に投げていいというのは、点を取り合う競技。アメフトとかね。そういうところで、視点はいくつもあります。自分の気に入った視点で楽しんだほうがいい。例えばサッカーのようなスペースのある競技が好きな人は、広い視野で楽しんでもらえばいい。接触プレーが楽しみな人は、そこにフォーカスして観ればいい。あるいは、誰かのファンという人は、ボールを追わずにその選手だけ観ていれば、それはそれで楽しいでしょうし。そういう見方はたくさんあっていいと思います」

■最後に、読者へメッセージをお願いします。
「ラグビー界随一のスターが今年は去っていますけど(笑)。五郎丸がいなくなったからと言って、ラグビーを観たいという人が減るとは思っていません。先日の日本代表戦も満員。新しいスター、ラグビー界の顔になる選手が必ず出てきます。ヤマハだけでなく、多くの試合会場が満員になることに期待しています。新しいラグビーシーズン、トップリーグをみなさん観に来てもらって、楽しんでもらいたいですね」

プロフィール

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清宮克幸
Katsuyuki Kiyomiya
1967年7月17日 大阪府生まれ
2001年に早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、3度の大学日本一に導くと、2006年にはサントリー監督に就任して、2年目にマイクロソフトカップ優勝。2011年にヤマハ発動機監督に就任し、トップリーグ降格の危機に瀕していたチームを2014-15シーズンには日本選手権優勝を果たすまでに急成長させている。

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