Interview ヤマハ発動機ジュビロFWコーチ 長谷川慎「ラグビーは、努力がセンスに勝つスポーツ」

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空前のラグビーブームを巻き起こした2015年のラグビーワールドカップにおける日本代表の躍進。そこで勝利のキーポイントになったのが、スクラムだった。長年日本の弱点とされてきたスクラムが、なぜ“武器”と称されるまでになったのか。ヤマハ発動機ジュビロのフォワードコーチを務める長谷川慎が、スクラムとラグビーの奥深さを語った。

スクラムが強ければ日本代表になれる

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■ラグビーにおける、スクラムの重要性を改めて教えてください。
「チームや国、指導者によって違ってくると思いますが、例えば、僕の知っている中でスクラムなんか関係ないというチームがあります。でも、やはりそこで負けてしまうと、みんなのメンタルが落ちてしまうんですね。スクラムはそういう心理的なところを上下させる。80分間の試合の中でスクラムを組む回数は10本程度しかないのですが、その10本が実はすごい大事なんじゃないかと思っています」

■スクラムとの出会い、またご自身のラグビーキャリアについて教えて下さい。
「母親がラグビー好きで、4歳でラグビーを始めました。地域の少年団に入って、ずっと2番(フッカー)をやっていましたが、社会人になってから1番(左プロップ)になりました。それまではスクラムについてあまり理解していなかったのですが、社会人になって2番で試合に出れるようになり、次の年に坂田っていうすごいやつが入ってきて、敵わないので仕方ないから1番に。たまたま、スクラムの見本になるような選手が近くにいて、マネージャーにその人だけのビデオを作ってもらったりとか、体形が違うので自分流にアレンジしながら模倣していました。その頃は試合に出るためだけにスクラムを研究して組んでいましたね。98年くらいから、チャンスを逃がさないためにひたすら研究していました。誰にも教えてもらっていません。自分で考えたオリジナルのやり方で、それを武器にして日本代表にもなれるぞというのを身をもって体験しました。スクラムは努力だと思うんですよね。バックスの選手というのはセンスであったり、持って生まれた要素が強いと思うのですが、フォワードはスクラムが強くなったら日本代表になれる。実際、僕が初めて選抜とかに選ばれたのは日本代表でした。学生選抜とか、アンダー代表もなく、スクラムを突き詰めているうちに、選ばれるようになった。選手には、同じ経験をさせてあげたいと思っています」

■昨年のW杯でのジャパンも、スクラムが脚光を浴びていました。ジャパンの活躍をどう観ていましたか?
「まずルール変更が大きかった。それまでは30cm離れたところからぶつかり合っていましたが、首の怪我の防止などの理由で3cmに修正された。最初から得意な姿勢を取れるのが大きいですね。それからW杯で『スクラムに強いジャパン』という印象をもたれたかもしれませんが、1本1本を良く見ると、それほど勝っていないんですね。南アフリカとの試合では、1本目を組んだときに押し返さないで引いたんです。それを1試合で2回やっていました。油断させておいて、要所で押し勝つことができていた。1試合通してのスクラムのシミュレーションがしっかりしていたんですね。ただ、あれはチャレンジャー側のチームが描くシミュレーション。今の日本だったら、強いチームのシミュレーションができるはずだと思っています」

フランスのスクラムの強さが忘れられなかった

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■ヤマハではフォワードメンバーのスクラム合宿としてフランスを度々訪れていますが、合宿では何を得られますか?
「フランスへのスクラム合宿の意図としては、自信をつけさせたかった。例えば、南半球に行くと、相手のチームはU-20とか、2軍のメンバーとか、決して一軍メンバーとスクラムを組ませてくれません。でもフランスに行くと、トップ14でリーグ優勝したラシン92のAチームとスクラムが組めたり、カストル・オランピックというフランス国内屈指のスクラムの強いチームが本気のメンバーで押しに来てくれたり。フランスには同じ組み方のチームがほとんどなく、各チームのコーチが考えたオリジナルでやっています。また、ボールの扱いが上手くなかったりスピードがなかったりするけど、2部リーグのプロップのほうが、スクラムだけは1部リーグより強かったり。スクラムだけに特化したような、一芸に秀でている選手が2部に多かったりします。とにかくスクラムに個性があって、色々な経験をさせかった身としては、行ってよかったと思っています」

■なぜ、フランスなのでしょうか?
「日本人は昔からニュージーランドやオーストラリアなどの南半球に教えられた歴史から、南半球の組み方しか知りません。その中で、ちょっと違う組み方をしようと思ったら、違うところに行った方が良いんじゃないかと考えたのが始まりでした。元々、僕は2003年にワールドカップでフランスと対戦して組んだときに、対面には勝っているのですが、全体で押されるんですよ。どうしてもその感覚が忘れられなくて、2011年にサントリーのコーチを辞めてヤマハに入る前、1人で行ってきました。行ったら2003年の試合を覚えている人が多くて、『あのときの1番だ』って言ったら急に歓迎ムードになって(笑)。対面の選手もいて、そのときに仲良くなった人が次に会いに行ったらめちゃくちゃ喜んでくれて、いろんなチームやコーチを紹介してくれました。1回目にヤマハの選手たちを連れて行ったときは、挑戦しに行きました。まだ強いチームの雰囲気ではなくて、コーチングも受けました。そして2回目に行ったときは勝負しに行った。1回目は教えてもらおう、2回目は自分たちの力がどこまで通用するか。その2年間ですごく成長したと感じています」

■スクラムで日本人が通用するところ、足りないところを教えてください。また、長谷川コーチ流の教え方はどんな特長がありますか?
「通用する部分としては、日本人はまず股関節をたたむことができる。それから、同じことを、みんなで何回も何回も正確に繰り返すことができる。これは日本人ならではだと思います。毎回同じルーティーンが、しかも8人が揃ってできるっていうのは、海外では難しいと思います。一方、足りないのはフィジカルですね。ただ、歴代の日本代表監督でスクラムに舵取りをした監督、コーチはいないので、本気で強化したら、どうなるかは分かりません。僕の教え方は、感覚で説明するのではなく、全部言葉で説明しています。『ひざを落とせ』というが、じゃあどうやってひざを落とすのか。どうやって組むのか。言葉で説明するようにしています」

スクラムで観客と一緒に相手の心を折る

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■観戦時、スクラムに注目するポイントとして何を挙げられますか?
「例えば、ヤマハは全部直球を投げるわけですよ。向こうのフランカーとかNo.8は必死で耐える。そこでポーンとNo.8がサイドに行ったら簡単に抜けるのに、行かない。でも最初からそんな変化球を投げに行ったら、向こうはサイドを警戒する。直球があるから、変化球が生きる。スクラムが崩れるのも、相手に崩されたのか、意図して崩したのか。8人で本気で押しに行っているのか、すかそうとしているのか、観ていたら絶対に分かると思います。4番・5番(ロック)、6番・7番(フランカー)の肩の位置と腰の位置、腰の位置の方が低くて、しっかり押しているかどうか、腰が浮いていて、頭だけついていたら本気で押していないとか。そういった深読みがあたると面白いけど、組んだことがない人には正直、分からないかもしれません。世界のトップレフェリーでもスクラムに関するジャッジは難しいとされています。彼らも組んだことがないので」

■理想のスクラムを教えてください。
「相手の心を折るスクラム。例えば、YouTubeで『30m スクラム』って打ったらすぐに出てくる動画があるのですが、プレミアシップでノーサンプトンというチームが、スクラムで相手を30m押す。で、その30mのスクラムがすごいんじゃなくて、それに対して観客がスタンティングオベーションで後押しする。相手は心折れますよね。自分のチームがそういうことをして、ファンが理解して拍手をする。僕がヤマハに来て一番最初にその動画を見せて、こういうチームになろうと話したのですが、それが理想かな。相手の心を折りながら、ファンも待ってましたと拍手で後押しをする。そういうチームというのは色々なところから期待されているチーム。ファンからも期待されて、チームからも期待されて、相手も対策してくる中で結果を出して、スクラムで流れを変える。それが一番良いスクラムだと思います」

■最後に、長谷川コーチにとって、スクラムの魅力とは?
「考え方と努力次第で、いくらでものし上がれるところですかね。スクラムというより、ラグビー自体がそういうものだと思っています。『努力がセンスに勝つスポーツ』というところが好きだと思うんですよね。その中でも特にスクラム、1番・3番(プロップ)っていうのはそうした要素が強い。だから遅咲きが多いといわれていますが、小さい頃から色々な経験をさせて、その努力を教えてあげたら、20歳そこそこでめちゃくちゃ強いプロップが育つと僕は思っています」

プロフィール

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長谷川 慎
Shin Hasegawa
1972年3月31日生まれ 京都府出身
日本代表キャップ数:40
RWC出場歴:1999 、2003
ヤマハ発動機ジュビロFWコーチ

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