ラグビージャーナリスト 村上晃一氏が6月の3連戦を展望!

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ラグビー日本代表は6月10日(土)にルーマニア代表と熊本で対戦し、6月17日(土)には静岡で、続く24日(土)には東京でアイルランド代表とテストマッチを行う。奇しくも5月に行われたラグビーワールドカップ2019の組み合わせ抽選会で、アイルランドは日本と同じプールに入り、ルーマニアもヨーロッパ予選で1位になれば日本と対戦することになる。抽選会の結果でにわかに重要度を増した6月のテストマッチ3連戦を、ラグビージャーナリストの村上晃一氏に展望してもらった。

ワールドカップで自信をつけ、スーパーラグビーでレベルアップ

■ジェイミー・ジョセフHCのここまでの評価と、日本代表の現在位置について教えてください。
2015年のワールドカップで、過去1勝しかできなかった日本は3勝を挙げて、日本ラグビー界全体が自信をつけました。それからHCとして引っ張ってくれていたエディー(・ジョーンズ)さんが契約を終えて、後任はジョセフで決まりましたが、当時率いていたスーパーラグビーのチームとの契約の関係で、来日できるのは9月からでした。その間、日本ラグビーは停滞するはずだったのですが、その期間中にスーパーラグビーがあったことで、個々の選手たちがすごく良い経験を積むことができました。去年の6月、バンクーバーでカナダと対戦して、スコットランドが来日しましたが、怪我人もいた中でカナダに勝ち、スコットランドともそこそこ良い勝負ができたというのは、明らかにスーパーラグビーで個々がレベルアップしたから。ただ、当時はスーパーラグビーのヒト・コミュニケーションズ サンウルブズと日本代表が連動していなくて、サインプレーが違ったり、両方に選ばれた選手は戸惑いながらプレーしていました。でも9月にジョセフが来日して、サンウルブズ、ジュニア世代など含めて、全ての日本代表の総監督になりました。色々なカテゴリーの日本代表がありますが、それを全て統一した戦い方にすることで、下の世代から上がってきた選手も戸惑いなくサンウルブズや日本代表でプレーすることができます。また、ジョセフはNDS(ナショナル・デベロップメント・スコッド)という「将来日本代表に選出される可能性のある高いポテンシャルを持った人材」や「サンウルブズのメンバーのうち遠征に参加しない選手」による定期的な合宿を行ってきました。なので現在、70 ~ 80人くらいの選手が同じ方向性の下に、良い経験を積めています。そして6月の3試合は、その中から一番コンディションの良い選手が集まるので、すごく良いチームになっていると期待しています。

■スクラムコーチにヤマハ発動機ジュビロの長谷川慎コーチが入り、それに伴ってヤマハの選手も増えましたが、ここまでの仕事ぶりはいかがですか。
とても良い仕事をしている印象です。2015年の日本代表は、マルク・ダルマゾがスクラムコーチを務めて、彼がすごく良いスクラムを作ったことがワールドカップでの躍進に繋がりました。しかし翌年、エディーとともにスクラムコーチがいなくなり、2016年のスーパーラグビーはスクラムで苦しみました。日本代表に選ばれるほど経験のある選手でも、スクラムをきめ細かく教えてくれるコーチがいないとうまくいかないということがハッキリしました。そこで、今季より日本のスクラムの第一人者である長谷川慎コーチが入った。同時に、一番スクラムの強いメンバーを集めようとなったときに、トップリーグでもスクラムが強いヤマハ発動機の選手が選ばれるわけです。ヤマハ発動機と日本代表とでは、組み方も長谷川慎さんの教え方も違いますが、基本的にはいかに小さな選手が良いスクラムを組むかが主題なので、ヤマハ発動機の選手がいるとすごくやりやすい。また、ヤマハ発動機の選手たちが、スクラムに強いだけではなくて、予想以上に器用でした。例えば日野剛志も、フッカーとしてはすごくスキルが高い。スピードもあるし、ボールを持てて、時々トライするような、攻撃的なフッカーです。プロップの伊藤平一郎も、元々はフッカーで、ボールを持って前にいくような選手でした。山本幸輝はタックルがとても良くて、スクラムも強い。彼の体を張ったタックルは、日本の武器になると思います。元々ハンドリングスキルがあって、ボールを持って走る、前に出ることが得意な選手に、スクラムを仕込んで強くしたのが長谷川慎コーチ。そしてジョセフがやろうとしているラグビーというのは、一人ひとりにそういったパス能力だったり、色々なスキルだったりを求めています。色々なことができるプロップが求められているところに、ヤマハ発動機の選手がフィットしたんですよね。ボールを前に運べて、パスもできて、タックルも良いという選手が、これからの日本代表に選ばれていきます。フォワードの第一列には、スーパーマン的な、何でもできる選手が求められているわけです。

すべて2019年につながっている

■ラグビーワールドカップ2019の抽選が行われました。日本のプールについて、どのような印象を持っていますか。
アイルランド、スコットランド、ヨーロッパの1位、さらにヨーロッパとオセアニアによるプレーオフ勝者なので、これだけヨーロッパタイプが並んだことは日本にとっては幸運といえます。例えば、ニュージーランドがいて、フランスがいて、フィジーがいてというプールになると、それぞれタイプが違うので、対策もそれぞれ立てなければいけません。一方、ヨーロッパは基本的にはタイプが同じチームばかりなので、一番強いアイルランドに勝てるようなチームを作ることができれば、他のチームにも勝てると考えられます。そこはすごく幸運でした。プレーオフのところでトンガが入るかもしれませんが、アイルランドに勝てるようなチームを作れれば大丈夫です。実は前回大会も同じで、全てフィジカルが強いチームでした。だからフィジカルに対抗するためのチームを作れば良かった。今回はヨーロッパ型なので、ちゃんと準備ができれば、ベスト8に進める可能性はあります。ただし、楽観視してはいけません。アイルランド、スコットランドは世界の4位と5位ですから。前回大会でもスコットランドには負けていますし、決して楽ではありません。ただ、ヨーロッパ系が並んだこと、そして日本が一番苦手なジョージアがいない。これは大きかったと思います。ヨーロッパ系のパワーラグビーにしっかり耐えることができれば、可能性はありますが、今の段階ではアイルランドやスコットランドも同じようにラッキーだと思っているはずです。日本のところにアルゼンチンやジョージア、イタリアが入るより、よほど楽ですから。

■アイルランドとは6月に対戦し、ルーマニアもヨーロッパ1位で同じプールに入る可能性があります。
抽選の結果で6月の試合の重要度がかなり増しましたが、非常に難しいのは、日本の情報の方が多く取られてしまうので、どこまで情報を出すか。準備しているサインプレーを全て使うことはしないでしょうし、選手もベストメンバーで戦うというよりも、若手を起用したり、情報を小出しにしながら戦うと思います。すでに2019年を見据えた戦いになっていますので、どんな結果になろうとも、試合の中で「このプレーはこうなる。でも2019年はどうなるか分からないな」と、色々な想像ができます。例えばスクラムでアイルランドを押せたとしても、アイルランドの主力11人が「ブリティッシュ・アンド・アイリッシュ・ライオンズ※」に参加しているので、2年後の参考にはなりにくい。アイルランドのジョー・シュミットHCは、今回の抽選結果を受けて、「6月に試合を組んでいてすごくラッキーだった」と言っています。日本がどういう環境なのか、ジェイミー・ジョセフがどういうHCなのかを見ることができると。もし日本が勝てば、2年後はそれをモチベーションにやってきますし、負ければ日本の弱点を握られて、サポーターも盛り下がってしまう。6月の試合は、すごく難しいです。
※4年に1度結成される、イングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの代表選手による選抜チーム

■そんな難しい試合ですが、展望をお願いします。
ジョセフHCは若手を入れると言っていましたし、アジアラグビーチャンピオンシップで戦ったメンバーや、サンウルブズで活躍している若手で、2019年にプレーできそうな選手を入れてくると思います。ただ、主力選手もアイルランドとの戦いを経験した方が良いので、前半で下げたり、リーチ マイケルやアマナキ・レレイ・マフィといった海外のスーパーラグビーでやっている選手が帰ってきた場合でも、後半から出したり、フルではプレーさせないかもしれません。選手の起用法も含めて、色々な駆け引きをするでしょうね。

■3連戦を観るファンに向けてメッセージをお願いします。
難しい試合と言いましたが、すべて2019年に繋がっているということが、一番面白いところです。2019年にどう勝つかを考えながら、日本のラグビー界が動き始めています。あとは、せっかくならワールドカップを想像してもらって、こういうことが2年後に起こるのかと。国の代表同士の戦いで、国歌斉唱だったり、試合が終わってからの選手との触れ合いだったり。特に海外の選手はフレンドリーに接してくれて、選手との距離が近いのはラグビーならではですので、その辺りも楽しんでもらいたいですね。それから、アイルランドはラグビーの文化を伝統的に守っている国で、例えばアイルランドのスタジアムでプレースキッカーがボールを蹴るとき、サポーターはシーンと静まり返って、物音ひとつ立てない。そんな文化を持っている人たちなので、できたら日本でも同じような空気を作れたら、アイルランドのサポーターも「日本のサポーターってラグビーのマナーをちゃんと守る人たちなんだ」と感じてもらえると思います。もちろん、応援するときは大声で叫んだりしていますが、プレースキックのときは本当にシーンとなって、メリハリがすごい。テストマッチですけど、スタジアムの雰囲気も自分たちで作って、楽しんでもらいたいです。

プロフィール

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村上 晃一 Koichi Murakami
ラグビーマガジン編集長を経て、フリーランスの編集者、記者として活動。ラグビーマガジン、Number(文藝春秋)などへラグビーについて寄稿し、JSPORTSのラグビー解説も98年より継続中。

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